CLI と自分の LLM で記帳する
これはファイルファーストな記帳の進め方です。自分の AI アシスタント
(Claude、Cursor、Copilot、その他 MCP 対応エージェント)が帳簿のファイルを
読み書きし、iris CLI が検証と集計を行います。仕訳などの記録は YAML
フロントマター付きの Markdown、設定は単独の YAML ファイルです。ローカルの
iris はアカウントもネット接続も不要です。AI サービスには接続が必要な場合があります。
CLI の利用とサポート
iris CLI は無料で、**現状のまま(as is)**提供します。動作や出力の正確さ、
個別サポート、不具合の修正、継続的な更新は保証しません。出力は自分で確認し、
帳簿は別途バックアップしてください。質問や不具合の報告は
Discord コミュニティへお寄せください。回答は保証しません。
全体イメージ
記録したいこと、知りたいことを AI に伝えるところから始めます。
- 資料を渡す、AI が読めるファイルの場所を伝える、起きたことを話す。 必要なツールとアクセス権があれば、明細の取得も AI に頼めます。
- AI が元資料を帳簿内の
raw/に保存し、内容を読み取り、仕訳と説明を提案する。 irisが構造と計算を検証し、レポートを計算する。- あなたが内容を確認し、承認するか質問する。通常は確認後に記帳します。 自動記帳を認めている場合は、その帳簿で選んだ方針に従います。
AI は判断と説明、iris は検証と計算を担います。手作業でファイルを整理したり、
形式を覚えたりする必要はありません。検証に通っても、資料の読み取りまで
正しかったと保証されるわけではありません。
家計は無理なく続けられる詳しさで
日々の私的な支出は、役に立つ範囲で記録すれば十分です。領収書をすべて残す 必要はありません。今の手持ち現金を伝え、前回から何に使ったかを AI に 大まかに聞いてもらえます。その際、現金の補充や移動も確認します。カードや 銀行の明細があれば、金額をそのまま使い、用途は AI が大まかに分類できます。 推定や使途不明の差額は明記し、架空の買い物で埋めないようにします。
事業の帳簿は、金額・日付・科目を正確にし、根拠となる資料も大切にします。
個人の記録でも、税務や経費精算に使うものは同じ扱いです。希望する記録の
詳しさは notes/workflow.md に、推定の根拠は仕訳の本文やノートに残すよう
AI に頼んでください。判断や質問もファイルに残るため、次の会話や別の AI に
作業を引き継げます。同期を使うと、クラウドのコピーとサーバー側の変更履歴も残ります。
税理士も顧客ごとの作業フォルダで記帳する
税理士・会計事務所にも、自分の AI と帳簿ファイルで作業する方法を勧めます。 顧客ごとに帳簿を保存するフォルダを分け、専用の AI セッションや VM には その顧客のフォルダだけを渡します。たとえば、顧客Aの Cowork セッションには 顧客Aの必要な年度の帳簿だけを読み書きさせ、全顧客をまとめた親フォルダは渡しません。
共有された既存の帳簿をそのフォルダに clone し、権限のある手順で同期します。 ガイドとノートを読み、修正案の作成・検証・記帳をその帳簿の方針に沿って進めます。 引き継ぎに必要な情報も顧客のファイルに残します。一時的な VM とは別に、 継続して保管できる場所にもコピーを持ってください。
接続ツールや認証情報の範囲も確認します。ホスト側の共通 MCP サーバーは、 指定フォルダの外にあるクラウド帳簿にもアクセスできる場合があります。PAT の 役割指定も、顧客を1社に限定する機能ではありません。事務所全体の認証情報や 一括処理ツールは顧客の AI セッションに渡さず、必要なら clone・同期を別の環境で 行い、対象ファイルと他の顧客に届かないツールだけを渡します。実際のアクセス範囲を確認してください。
Web アプリ はレポートの閲覧、レビュー、権限に応じた承認、履歴確認に 使い、ファイルでの作業を補います。
最初の一度: AI をつなぐ
iris onboard
iris onboard は iris mcp serve(iris の各動詞をツールとして公開する小さな
サーバー)を MCP 対応アシスタントに登録し、Claude Code スキルを書き込みます。
Claude Code には常に登録され、Claude Desktop・Codex・Cursor・Gemini CLI・
VS Code はインストールが検出された場合に登録されます。これにより、アシスタント
は台帳の状態を推測せず、validate・diff・balance・report・status、そして
サインイン後は sync を直接呼べます。
現在の接続状態は iris onboard --status でいつでも確認できます(AI 向けには
--json を追加)。iris onboard の再実行は常に安全で、登録はその場で更新され
ます。すべて元に戻すには iris offboard — 帳簿やサインインには触れずに、登録
とスキルを削除します。
この接続設定は、帳簿フォルダがあるマシンのためのものです。クラウド連携済みの 帳簿なら、そのマシンから離れた場所からも帳簿と対話できます — 外出先の AI から帳簿へ(リモートコネクタ) を参照してください。
どの帳簿にもルートに LLM-GUIDE.md が同梱されます。AI が作業前に読む完全な作業
契約書です。あなたが読む必要はありませんが、AI が規約(ファイル名、複式簿記の
ルール、不確実な点をどこに記すか)を知っているのはこのおかげです。
サンドボックス内のアシスタント(
irisバイナリの無い VM など): 帳簿内に 同梱コピーはありません。ホストの MCP を使う場合は、ホストがiris mcp serveを実行し、アシスタントは同じフォルダに対してツールを呼び出します。顧客の 作業では、ホストへの接続も前述のアクセス範囲に制限してください。
Cowork の .mcpb 拡張では、帳簿をまとめる親フォルダ(例: ~/IrisBooks)を
選び、各帳簿をその直下の子フォルダに置きます。Cowork にも作業するフォルダへの
ファイルアクセスを許可してください。親フォルダが空でも起動でき、AI に
create_book で帳簿を作るよう依頼できます。AI は list_books で帳簿を確認し、
各操作で対象の帳簿を指定します。子フォルダに帳簿を追加するたびに MCP の共通設定を
変更する必要はありません。手動で設定する場合は
iris mcp serve --books-dir ~/IrisBooks を使います。--book PATH も引き続き
1 つの帳簿に使えます。MCP コマンドも参照してください。
税理士の作業では、親フォルダに1社の帳簿だけを置きます。たとえば、
~/IrisBooks/ClientA/2026 と ~/IrisBooks/ClientA/2027 を置き、顧客Aの
AI の接続先は ~/IrisBooks/ClientA にします。クラウドの認証情報の範囲も
別途確認してください。会話を分けるだけではアクセスは制限されません。
iris のバージョンを確認して更新する
iris update --check --json # 使用中のバージョン・最新版・実行ファイルの場所
iris update # 検証してから実行ファイルを置き換える
更新確認は、指定したときだけ公開サーバーに問い合わせます。ログインは不要です。
帳簿の操作は引き続きオフラインで使えます。確認に失敗した場合、最新版かどうかは
不明です。開発版・リリース候補は development と表示され、自動では置き換えません。
公開版より新しいバージョンを古いものに戻すこともありません。
更新後は帳簿のフォルダーで iris onboard を実行して AI 向けの案内を更新し、
IrisBooks の MCP サーバーを再起動します。AI に check_update を呼び出してもらい、
サーバーが使うバージョンを確認してください。結果には実行ファイルの場所と、
PATH が別のファイルを指している場合の案内も表示されます。
.mcpb 拡張には別の実行ファイルが含まれます。確認結果のリンクから対応する
バンドルを入手し、同じ親フォルダを指定してクライアントの拡張設定から入れ直し、
再起動してください。1 つの帳簿を指定する旧版から更新する場合は、その帳簿の
親フォルダを新しい設定で選びます。CLI の更新だけでは拡張は更新されません。Windows で実行ファイルが
使用中のため置き換えられない場合は、IrisBooks の MCP サーバーを停止して再実行します。
iris update がない古い版は、インストーラーを再実行して更新し、
続けて iris onboard を実行します。AI が更新をインストールする前には、ユーザーの
許可が必要です。すでに更新を依頼されている場合は、再確認は不要です。
毎日のループ
1. AI に情報を渡す
銀行CSV、領収書の画像、PDF 請求書をチャットに添付するか、AI が読める
フォルダの場所を伝えます。必要なツールとアクセス権を与えて取得を頼む方法も
あります。元資料の raw/ への保存は AI に任せられます。自分で置きたい場合は、
日付別・取引先別などのサブフォルダも自由に使えます。家計の現金支出なら、
資料なしで、残高と短い聞き取りから始めることもできます。
2. AI に処理させる
アシスタントに「この明細を記録して」「最近の家計の現金支出を整理したい」などと
頼みます。LLM-GUIDE.md に従い、AI は次を行います。
- 資料がある場合は全文読み、
notes/raw/<source>.mdにパースキャッシュを書きます。 各行をjournaled・ignored・deferredで記録した恒久的な表です。あとで同じ 明細を開き直しても作業をやり直さずに済みます。 - 聞き取りの場合は、伝えた内容や推定の根拠を仕訳の本文やノートに残します。
- 希望する詳しさに合わせて、
journals/YYYY-MM/…-NN.mdにstatus: draftの仕訳を提案します。 - 事業の判断で未解決の点や重要な不明点は
notes/open-questions.mdに記録します。 家計の推定額や推測した分類も明記します。
3. 検証する
iris validate
全ファイルをチェックします。YAML が解析でき、借方=貸方、科目が勘定科目表に存在し、 日付が整合し、ステータスが正当で、(日本の課税事業者向けには)税区分が整合して いるか。エラー — たいていは勘定科目表に無い科目か、貸借不一致 — を直して再実行 します。このループは AI に任せられます。
iris validate の末尾に「同期キューでブロックされたファイルがある」旨の注記が
出た場合、それはファイルの問題ではなくサーバー側の拒否です。
トラブルシューティング を参照。
4. レビューして帳簿を読む
iris balance # 本日時点の試算表(記帳済みのみ)
iris report pl --from 2026-04-01 --to 2026-06-30
iris report bs --as-of 2026-06-30
iris search --payee amazon --from 2026-04-01 # 仕訳を検索
iris show raw/2026-05-invoice.pdf # この資料を引用する仕訳
帳簿フォルダにアクセスできる場合、通常のファイル一覧・読み取り・文字列検索・
下書きやノートの編集には rg・grep・find・cat・sed やエディタを使います。
操作は選択した帳簿内で行い、記帳データを編集した後は検証します。ローカル MCP は
会計計算、検証、認証、同期、記帳・締め・償却・翌年度帳簿の
作成などの専用処理に使います。検索などの参照ツールは任意の補助です。
構造化した条件や締め済み状態での検索、ファイルに直接アクセスできないクライアント
で利用できます。
iris search と iris show は、構造化したオフラインの参照にも使えます。
5. 記帳する
下書きは、記帳するまで各種レポートや残高に反映されません。内容に納得できたら 記帳します。
iris post journals/2026-05/2026-05-04-example-com-01.md
iris post はファイルを検証(空でない・貸借一致)し、status: posted にし、
帳簿がクラウド連携済みなら同期します。--dry-run で変更せず確認できます。
status: フィールドを手で編集してもかまいません。post は貸借チェックと同期を
兼ねた便利コマンドです。
オンラインにする(クラウド)
ローカル帳簿をクラウドにリンクすると、Web アプリ・複数端末・共同作業・期間
年度の締め・恒久履歴が使えるようになります。上記のファイルファーストな
流れは変わらず、iris sync が増えるだけです。
iris api login # ブラウザでサインイン。このデバイス専用の CLI セッションが発行される
iris api books new # クラウド帳簿を作成…
# …または既存のものにこのフォルダをリンク:
iris api books link <book-id>
iris sync # 明示的な push + pull を1回
ブラウザーで承認するときに、この CLI で利用する帳簿を選んでください。 最初の帳簿や翌年度の帳簿を作る場合は、帳簿の作成を許可するを選びます。 この認証情報で作成した帳簿には同じ操作権限でアクセスでき、他の方法で追加された 帳簿は含まれません。コールバック・ファイル・端末認証の承認画面は同じ選択方式です。 年度の引継ぎには、引継ぎ元の Owner 権限と Full の操作権限が必要です。
以後:
iris syncはローカルの変更を push し、新規分(例:税理士がファイルで作成・同期した 仕訳)を pull します。ファイルごとに受理/拒否を報告します。iris diffは同期前に「何が push されるか」を正確に表示します。iris api history --path journals/2026-05/...md <book-id>はファイルの 訂正・削除の履歴を表示します。
同期は明示的なまま — 依頼したときだけ動き、裏では動きません。
固定資産と減価償却
償却資産がある場合は、各資産を assets/YYYY/<name>.md に記述します(取得価額・
耐用年数・方法)。続いて:
iris asset schedule # 各資産の償却計画を見る
iris asset depreciate --year 2026 # 資産ごとに期末の仕訳を 1 本
iris asset depreciate --month 2026-05 # 月次で締めるならその月の仕訳を生成
iris asset depreciate は提案仕訳(status: draft)を書き出すので、ほかの仕訳と
同様にレビューして記帳します。詳細と日本固有のルールは
日本の税務・コンプライアンス に。
AI が間違えられない減価償却
定額法は iris が自分で計算します。国ごとの事情が入る方法 — 日本の定率法、米国の
MACRS — は進め方が違います。AI が償却率を調べ、方法が切り替わる時点を判断し、
計算は iris に渡して、出来上がった表を資産ファイルの schedule: に記録します。
そのために MCP 経由で 4 つの資産ツールが使えます。
| ツール | 役割 |
|---|---|
asset_schedule | エンジンによる資産別の数値。申告にはこの値をそのまま使う |
declining_table | 指定した率での定率法の表 |
flat_table | 償却し終わるまで一定額を計上する表 |
straight_line_table | 基準額を N 期間で均等に割る表 |
jp_teiritsu(オーバーレイのレシピごとに 1 つ) | 地域オーバーレイに用意された組み合わせ。あればこちらを優先 |
肝心なのは、AI が残高を手で掛け算していかないことです。計算の取りこぼしはそこで
起き、しかも合計だけは合ってしまう取りこぼしは iris には見抜けません。だから
正確な表を組み合わせる形にしています。さらに、帳簿の地域オーバーレイにその方式の
レシピがあれば — 日本の定率法は jp_teiritsu — AI はそれを呼びます。レシピが
決められた順序で表を組み立て、行の出どころを記録するので、iris validate が
再計算して 1 年遅れの切替を捕まえられます。手で組み合わせるのは、レシピのない
方式の代替手段です。ファイル形式と iris が検査する内容は
schedule: に。
エクスポート
iris export # journals.csv, trial-balance.csv, ledger-*.csv
iris export --year 2026 # 会計年度で絞り込み
iris export assets # 資産別の償却スケジュール
CSV は、日本語などの非 ASCII 文字を Excel が正しく開けるよう UTF-8(BOM 付き)で書き出します。
文字列のセル(取引先・摘要・タグ・勘定科目名・資産名)が =・+・-・@ で
始まる場合は先頭に ' を付けて書き出します。表計算ソフトが数式として実行せず、
文字列として表示するためです。金額のセルは変えません。
クラウド連携済みの帳簿では、iris api history --all --json <book-id> で
帳簿の(つまりその年度の)訂正・削除の履歴をファイルに書き出せます。
やってはいけないこと
次のルールが帳簿の信頼性を保ちます(AI もこれに従います)。
- 記帳済みの仕訳を一括編集しない — 訂正仕訳を起こす。
compiled/を手で編集しない — 再生成可能な出力。- 仕訳の中で科目を勝手に作らない — 先に勘定科目表へ追加する。
次へ: GUI 側は Web アプリを使う、全コマンドは CLI コマンドリファレンス。