IrisBooks マニュアル
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第02章

基本コンセプト

IrisBooks を理解するための考え方を手短に巡ります。これらが腑に落ちると、 CLI も Web アプリも自然に使えるようになります。

ファイルがあなたの帳簿

帳簿はディスク上のフォルダであり、その中のファイルが会計記録の本体です。 あなたはそれを読み、編集し、差分を取り、バックアップし、普段のツールで 税理士に渡せます。CLI はそのファイルを、Web アプリは同期したクラウドの コピーを読み書きします。

1冊の帳簿が扱うのは1会計年度です。事業と家計を別々の帳簿にし、選んだ帳簿を 横断して集計できます。年度末には、この帳簿のコピーとして翌年度の帳簿が始まります — 帳簿は1年に1冊 を参照。

your-book/
├── config/
│   ├── book.yaml                 # 識別情報・地域・会計年度・通貨
│   ├── chart-of-accounts.yaml    # 勘定科目
│   ├── rules.yaml                # 任意の分類ヒント
│   └── overlays/                 # 任意: この帳簿独自の地域ルール
├── raw/                          # 元資料(CSV・PDF・領収書)
├── journals/YYYY-MM/             # 1仕訳 = 1 Markdown ファイル
├── assets/YYYY/                  # 固定資産(減価償却用)
├── filings/                      # 申告用の集計値の記録
├── notes/                        # 作業ノート・todo・方針・パースキャッシュ
└── compiled/                     # AI 生成レポート(再生成可能)

全レイアウトは 帳簿ファイル形式リファレンス に。

仕訳 — 取引

すべての取引は1件の仕訳で、journals/YYYY-MM/YYYY-MM-DD-<取引先>-NN.md に YAML ヘッダ付きの Markdown ファイルとして保存されます。フォルダ名は日付の年と 月、つまり日付の先頭7文字です。複式簿記なので、借方と貸方は必ず一致します。

---
date: 2026-05-04
payee: EXAMPLE.COM
status: draft
lines:
  - account: 資産:売掛金
    debit: 89790
  - account: 資産:事業主貸
    debit: 10210
  - account: 収益:売上
    credit: 100000
---

EXAMPLE.COM のリデザイン案件、5月分の請求。

--- の下のテキストは自由記述です。取引が起きた理由を書きます。ファイル名は その仕訳の恒久的な識別子で、ステータスが変わっても変わりません。

勘定科目 — 勘定科目表

勘定科目は config/chart-of-accounts.yaml にあり、それぞれ階層パス (資産:普通預金、費用:消耗品費)と種別(資産 / 負債 / 資本 / 収益 / 費用)を 持ちます。仕訳はパスで科目を参照します。科目の「通常残高がどちら側か」は種別から 導かれるので、自分で宣言する必要はありません。

科目にはエイリアスを付けられ、別の言語や短い名前で参照できます。仕訳の中で 新しい科目パスを勝手に作らないでください。先に勘定科目表へ追加します(あるいは AI に notes/open-questions.md で提案させます)。

ステータス — 仕訳のライフサイクル

すべての仕訳は status を持ちます。

ステータス意味
draft下書き。入力中、またはまだ不確実。まだ帳簿には載っていません。
posted記帳済み。レポートに載るのは記帳済みの仕訳だけです。

最も重要なルールがこれです。**iris balance・損益計算書・貸借対照表に含まれる のは記帳済みの仕訳だけ。**下書きは、記帳するまで各種レポートや残高に反映 されません。記帳は iris post か、status フィールドの 書き換えで行います。

(このほかに closed(Web アプリでの表示は「締切済」)も目にします。日付が 締め済み会計年度に入っている仕訳のことで、ファイルには保存されない導出値です。 Web アプリ・iris search・リモートコネクタのすべてがこれを表示します。年度を 再オープンすれば、保存されている本来のステータスがまた見えます。Web アプリでは さらに、未完了の下書きを示す incomplete マーカーも出ます。)

レポートは計算結果であり、保存されない

IrisBooks は「貸借対照表ファイル」を保存しません。レポートは、要求のたびに 記帳済みの仕訳から導出されます。

  • 試算表 — iris balance または iris report tb
  • 損益計算書 — iris report pl
  • 貸借対照表 — iris report bs
  • 科目別の元帳 — iris report ledger --account …

計算結果なので、常に元の仕訳と整合します。Web アプリは同じレポートをグラフィカル に描画し、それぞれ CSV に書き出せます。

元資料と相互参照

raw/ 配下のもの — 銀行CSV、領収書写真、PDF 請求書 — は仕訳の証憑です。仕訳は attachments で出所を指し、そのリンクは双方向にたどれます。

  • 仕訳から、それが引用する資料を見る。
  • 資料から、それを引用する仕訳を見る(iris show <path>、または Web アプリの 元資料ブラウザの「引用元」パネル)。

これで、あなたや税理士、監査人が、どの仕訳からも証憑へ、証憑からも仕訳へ たどれます。訂正・削除の履歴や検索など、ほかの記録まわりの機能は 日本の税務・コンプライアンス を参照。

地域のルール — オーバーレイ

iris のエンジンが知っているのは複式簿記であって、特定の国の税法ではありません。 国ごとに異なる部分は地域オーバーレイにあります。明細行の税をどう区分するか、 使える減価償却の方法と特例、その上限、申告の集計値を帳簿からどう組み立てるか、 といった部分です。地域オーバーレイは、YAML と CEL で書かれたルールと計算 (レシピ)をバージョンごとにまとめたものです。コミュニティが作る オープンソースで、地域以外の用途にも使えます。日本向けのパックでは、 消費税の税区分、減価償却の特例とその上限、定率法がいつ改定償却率に 切り替わるか、消費税申告の集計値を扱います。

帳簿は config/book.yaml で、使う公開バージョンを固定します(日本の帳簿の例)。

region: JP
overlay: jp@2026.09.1

互換性のある公開パックを複数使う場合は、overlays: で指定します。自分や AI で パックを選び、帳簿独自のルールを作ったり、改善をコミュニティに提案したりできます。

  • ルールは仕訳をチェックします。iris validate が実行し、クラウドも 書き込みのたびに同じバージョンで実行します。
  • レシピは地域固有の数値(定率法の償却表や消費税申告の集計値)を計算し、 出どころ(オーバーレイのバージョンと入力値)と一緒に、資産ファイルや filings/ に記録します。iris validate がレシピを再計算するので、入力から 導けなくなった数値は検出されます。
  • 固定したバージョンが勝手に変わることはありません。 新しいバージョンでは チェックや計算の内容が変わることがあるため、移行はあなたが決めたときに iris overlay upgrade で明示的に行います。古いバージョンで記録した数値は、 引き続きそのバージョンで照合されます。

まだオーバーレイの無い地域では、帳簿の作成時に overlay: の行がなく、普遍的なチェック (貸借の一致、勘定科目の存在、日付、金額)だけが行われます。その地域の オーバーレイが公開されたら、iris overlay upgrade で固定できます。

公開オーバーレイはオープンソース(Apache-2.0)で github.com/irisbooks/overlays にあります。 どの数値についても、根拠になったルールそのものをあなたや税理士が読めます。 そこのタグ名が、固定に書く値です。帳簿独自のルールを config/overlays/ に 加えることもできます。詳しくは 帳簿ファイル形式リファレンス を参照してください。

同期 — 3つの働き方

同じ帳簿は3つの形態で存在できます。「モード」を選ぶのではなく、機能を多く使うか 少なく使うかの違いです。

  • オフライン。 ファイルのみ、サーバーなし、アカウント不要。検証・レポートを ローカルで行います。プライバシー最大、ネットワーク不要。
  • ファイル + クラウド。 ローカルファイル + クラウドミラー(iris api login でサインイン)。ローカルで編集し、iris sync で push / pull します。 Web アプリ・複数端末・共同作業・タイムスタンプ付き履歴はクラウド側にあります。
  • クラウドだけにアクセス。 ローカルフォルダなしでも、クラウドのコピーを 閲覧・レビューできます。記帳作業では、税理士にも自分の AI とファイルを使い、 顧客ごとに作業フォルダとセッションを分ける方法を勧めます。

同期は明示的です。あなた(または AI)が iris sync・iris post を 実行するまでローカルのファイルはアップロードされません。Web アプリでの変更は 直接クラウドに保存されます。裏で勝手にファイルを送るウォッチャーはありません。 事業主も税理士も、同じ帳簿のコピーをそれぞれ同期し、Web で閲覧・レビューできます。

帳簿は1年に1冊

1つの帳簿は1会計年度分で、config/book.yaml の fiscal_year に記録されます。 年度が終わったら、iris yearend で翌年度の 帳簿をコピーとして始めます。この帳簿と同じ階層に新しいフォルダができ、 設定・勘定科目表・ルール・ガイド・ノート、まだ保有している固定資産、そして この年度の期末残高から計算した期首残高の仕訳が入ります。新年度の日付ですでに 記録した仕訳は新しい帳簿へ移ります。クラウドにある帳簿なら、同じ手順で新しい 帳簿のクラウド側も作られます。同じメンバーがアクセスでき、受信アドレスも新しい 帳簿へ移ります。

作成後、2つの帳簿の間につながりはありません。古い帳簿はそのまま残るので、その年度の 申告はそちらで済ませてから締めます。日々の作業は新しい帳簿で行います。年度ごとに 勘定科目表や設定を変えても、もう一方には影響しません。AI が見るのは作業中の年度 だけで、保存の必要がなくなった年度は単独で削除できます。

年度の締め(Seal)— 年度を「見える形で」ロックする

年度末には会計年度を締めます(iris api seal)。サーバーが誰がいつ締めたかを 記録します。ロックの対象は、その年度の日付の仕訳と、帳簿の config/・assets/・ filings/・compiled/ のファイルです。iris post は締め済み年度の仕訳を拒否し、 同期・Web アプリ・リモートコネクタからの対象ファイルの変更もサーバーが拒否します。 年度内の仕訳はどこでも closed として表示されます。元資料の raw/ と作業ノートの notes/ は引き続き変更できます。ローカルのファイル自体は編集できますが、 ロック対象の変更を同期するには年度の再オープンが必要です。

締め済み年度を修正するには iris reopen で再オープンします。 再オープン後にロック対象を変更すると、監査証跡に締め後の編集として恒久的に 記録されます。raw/ と notes/ の変更には通常の履歴が残り、締め後の印は付きません。 修正が終わったら再度締めます。新しい締めが古い締めを監査チェーン上で引き継ぎます。 締めによってファイルが削除されることはありません。 年度締め を参照。

恒久的な履歴(訂正・削除の履歴)

クラウド同期を使うと、サーバーが全ファイルの全変更を追記専用ログに保持します — 誰が、いつ、変更前は何だったか。これが訂正・削除の履歴です。 iris api history、または Web アプリのアクティビティタイムラインと 仕訳ごとの履歴パネルで確認できます。 帳簿の(つまりその会計年度の)記録は iris api history --all --json で ファイルに書き出せます。

ローカルの git 履歴はその代わりになりません。手元のパソコンにあり、書き換えも できるため、独立した記録ではないからです。恒久履歴をサーバー側に置いているのは そのためです。

2つのレンズの比較

CLI + 自分の AIWeb アプリ
主な用途事業主・税理士が AI とファイルで作業閲覧・レビュー・クラウドの管理
編集AI がファイルを書き、あなたがレビューブラウザのフォーム
オフライン動作可不可(サーバー必要)
レポートiris report …(テキスト/JSON)描画 + CSV

二者択一ではありません。多くのユーザーは両方を使います。CLI + AI で素早く 入力し、Web アプリでレビュー・レポート・共同作業をします。

次へ: CLI と自分の LLM で記帳する または Web アプリを使う。